大阪高等裁判所 昭和41年(ネ)373号・昭41年(ネ)1191号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕二、得べかりし利益の喪失額について。
(一) 控訴人は、本件事故の当時被控訴人の営業の中心は製靴販売ではなく既製靴販売であつたと主張するが<証拠>に照らすと、被控訴人が本件事故前は主に製靴販売に従事し、事故後はこれより利益の少い既製靴販売等に切り換えざるを得なかつたことが認められ、これに反する当審証人清水仁一の供述は右各証拠と対比して採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。
(二) また控訴人は、被控訴人の営業経費の控除が不充分であると主張し、これに沿う前記証人清水仁一(税理士)はその証言において、本件事故の前後にわたり被控訴人方の帳簿(甲第二、第三号証)上、いわゆる粗利益の計上が多額であり、これに対し必要経費の計上が低額で、結局純利益率が同業者にくらべて高率となつているというのであるが、しかし右甲第三号証の一、二(売上張)及びこれに基き作成せられた甲第二号証の一ないし四(金銭出納帳)の形式及び内容を検討し、これに、<証拠>(尤も右合供述中、本件事故後の収入減が一カ月平均二万円であるとの部分は措信できない)並びに弁論の全趣旨を併せ総合すると、右甲第二、第三号証について特にそのような事実を認め難く、右各証拠によれば、既述(原判決六枚目表二行目より一〇行目まで)のとおり、被控訴人が本件事故前一カ月平均七五、八九〇円程度、事故後は同五八、七九九円程度の純益をあげていたものと認められ、従つてその収入減は一カ月平均一七、〇九一円と認定するのが相当である。
右のとおり認められるのであつて、前証人清水仁一の供述をもつてしては未だ右認定をくつがえすに難く、又、前記甲第二第、三号証に記帳せられた数字におおむね百円未満の端数が省略せられているとの点も、右帳簿の正確性ないし信ぴよう性を疑わせるまでには至らないし、控訴人提出の<証拠>によれば被控訴人が税務署等に対し昭和三六年度ないし四一年度の所得につき不申告ないし低額の申告をしている事実が認められるけれども、このことは必ずしも前認定を妨げるものとはいい難く、他に前認定を左右する証拠はない。
(三) 原判決六枚目裏一行目「労働能力の減少」の次に「(年月の経過による労働能力の自然減少)」と附加する。
(四) 以上によると、被控訴人は本件事故に因り一カ月平均一七、〇九一円の収入を失い、且つ既述のとおり同人の稼働年数は、向後四二年間と認められるから、これを新ホフマン法によつて計算すると、右逸失利益の総額の現価は既述のとおり四、五七二、一二九円となる。
これに対し控訴人は、右のうち金一、三五〇、五一七円について時効消滅を主張するところ、右金一三五万円余のうち三万円を除くその余の部分は、本件事故に因り被控訴人の蒙つた営業上の収入減という事実に基く逸失利益の請求なる一個の権利関係につき、只その現価の求め方として、旧ホフマン法(単式計算法)よりも、より合理的な新ホフマン法(年別複式計算法)に拠つたため生じた数額の相違にすぎない(尤も正確にいえば、控訴人はあくまで月二万円の収入減を主張しているのであるから、右新ホフマン法による数値たる四、五七二、一二九円は、被控訴人の主張によれば新ホフマン法による計算結果の内金ということになり、前記数額の相違とは、右内金額と旧ホフマン法による金額との相違ということになる)ことは、本件弁論の経過に徴して明らかであるから、かかる場合、右差額分の請求が事故日より三年の経過後に行なわれたとしても、これに対し消滅時効の完成をもつて争い得ないことはいうまでもないところと解せられるので、右差額分金一、三二〇、五一七円については、控訴人の抗弁は理由がない。
しかし前記金一、三五〇、五一七円のうち、原審不請求分たる金三万円については、本件記録によれば、被控訴人はこれを控除した額につき判決を求める旨明示して訴を提起したことが認められるから、かかる場合、右三万円の請求権は、本件事故発生の日より三年を経過した昭和三九年九月一〇日の満了をもつて時効消滅しているものと解するのが相当である。従つて、右三万円についての被控訴人の請求は棄却を免れない。
(五) 以上のとおりであるから、被控訴人の逸失利益としては金四、五四二、一二九円を認容すべきである。(入江菊之助 小谷卓男 乾達彦)